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甲府地方裁判所 昭和41年(ワ)315号 判決 1972年3月08日

原告

三沢周子

ほか六名

被告

鈴木典明

ほか四名

主文

一  被告鈴木典明同山本美文は左記金額の全額につき、被告山本久美子同山本哲史同山本英樹は左記金額の各三分の一につき各自連帯して、原告三沢周子に対し金二四九万〇八九一円、同三沢恒徳に対し金三四八万一七八一円、同三沢秀文同三沢善行同三沢満仁同三沢美弥子に対し各金三五万円、同亡三沢ふさじに対し金一〇万円、ならびにこれに対し昭和四一年一二月一〇日から右各支払済にいたるまでそれぞれ年五分の割合の各金員を支払え。

二  原告らのその余の各請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項につき仮りに執行することができる。

事実

第一原告ら

一  請求の趣旨

(一)  被告鈴木典明同山本美文は下記金員の全額につき、被告山本久美子、同山本哲史、同山本英樹は下記金員の三分の一の額につき、各自連帯して、原告三沢周子に対し金二七六万八六五八円、同三沢恒徳に対し金四〇三万七三一七円、同三沢秀文、同三沢善行、同三沢満仁、同三沢美弥子に対し各金五〇万円、同三沢ふさじに対し金三〇万円、および右各金員に対し各訴状送達の翌日から右各支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とする旨の判決。

(二)  仮執行の宣言

二  請求原因

(一)  本件事故と被告鈴木典明、同山本美文(以下美文と称する)の過失ならびに賠償責任

1 被告鈴木と同美文は、昭和四〇年一二月四日午後九時ころより翌五日午前〇時ころまでの間甲府市内において飲酒し酩酊したため、その影響により被告鈴木は、前方を注視して自動車を正常に運転することができない状態になつていたのであるから、自動車の運転は厳に慎しみ、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにかかわらず、被告美文の運転依頼に応じ、同被告を助手席に同乗せしめ、肩書居住地付近を乗り廻すべく、訴外亡山本章史(以下章史と称する)保有の普通乗用車山梨五の一四三七号(以下被告車と称する)を運転して、甲府市北口一丁目二番南側道路を東方に進行した過失により、進路前方同所二番一三号家屋付近道路上にいた訴外三沢久称を発見できず、被告車の前部を同訴外人に衝突させ、よつて同訴外人に頭蓋骨骨折、第六頸椎骨折、第一第二頸椎間脱臼等の傷害を負わせ、即時同所で死亡するにいたらしめた。

2 被告美文は右一二月四日午後九時ころ、翌五日の日曜日を利用し、被告鈴木および永楽こと訴外窪田恵吉らと早朝のボーリングに行くために、実兄である亡章史の店舗内のレジスターの抽出しから、亡章史に断わらずに被告車のキイを持出し、その後前記のように被告鈴木とともに酒を飲み、被告鈴木が前記のように飲酒により酩酊していて、前方を注視して自動車を正常に運転できない状態にあることを知つていたのであるから、右被告鈴木をして自動車の運転をなさしめないように戒め、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのにかからわず、あえて右キイを被告鈴木に手渡して被告車の運転を依頼し、自らもその助手席に同乗し、被告鈴木をして前記運転をなさしめた過失により、前記事故を惹起したものである。

3 よつて被告鈴木と同美文は共同不法行為者として、右事故による損害を各自連帯して賠償する義務がある。

(二)  亡章史の賠償責任

1 亡章史は糸雑貨商を営んでいたものであり、被告車を訴外依田良雄から購入し、その実質上の所有者(割賦払いの方法で買受け、登録および損害賠償保険加入名義は右依田名義)であり、これを自己の営業の用ならびに同居している被告美文を含む家族らの慰安等の用に供して、経済的利益のみならず精神上の慰安にも利を得ていたものであるところ、亡章史は兄として、被告美文において運転経験がないところから、同被告が他出する際は、運転のできる知人に依頼して運転させることを知つており、かつ被告美文にそのためしばしば被告車のキーを貸与して使用せしめており、右キーは亡章史の店舗内のレジスターの抽出に入れてあつて、そして被告車は時には一定の車庫に格納されず付近の道路傍の広場等に駐車してあることを熟知していたものであつて、被告美文が随時右抽出からキイを持出して知人に運転を依頼して、被告車を運転させることができる状態に放置しており、亡章史は被告車の保管につき被告美文がこれを使用しないような特段の配慮はしていなかつたものである。

2 右のような状況のもとに、前記(一)のように被告美文が被告鈴木をして被告車を運転させたことは、右運行は亡章史と被告美文の身分関係、被告美文に従来からその使用を許容していた事情、被告車およびそのキイの保管の状況などから、亡章史の承諾を得てないとしても亡章史のための運行というべきである。したがつて亡章史は自動車損害賠償保障法(以下自賠法と称する)第三条により、本件事故による損害を賠償する義務がある。

3 しかるところ章史は昭和四四年四月一九日死亡し、被告山本久美子(妻)、同山本哲史(子)、同山本英樹(子)がその遺産を相続分に応じ相続した。したがつて右被告ら三名は、亡章史の負うべき賠償債務を履行する義務がある。なお右債務は前記被告鈴木、同美文の賠償義務と、各自連帯債務の関係に立つものである。

(三)  原告らの損害

1 亡久弥の逸失利益

亡久弥は右事故当時満四七歳の健康男子であつて、昭和三八年度の簡易生命表によればその平均余命は二七・三六年であるところから、その将来の就労可能年限は少くとも二七年である。なお同人は訴外株式会社山梨ヘルスセンターの代表取締役として勤務し、給料として一ケ年平均純収入金四二万一〇六二円を得ていたほか、不動産収入金一〇万三〇四〇円、合計金五二万四一〇二円の一ケ年の純収益があつた。したがつて亡久弥が本件事故による二七年間の逸失利益は、右純収益をホフマン式計算方法により年五分の中間利息を控除して得る金六〇二万一五九七円である。

2 ところで原告周子は亡久弥の妻、同ふさじはその母、他の原告五名はその子であるところ、亡久弥の遺産を原告周子は三分の一、同恒徳は三分の二の割合をもつて相続し、その他の子である四名の原告らは相続を放棄した。

(1) 右により前記亡久弥の損害賠償請求権のうち、原告周子はその三分の一、同恒徳は三分の二を相続した。

(2) 原告周子は亡久弥の葬式費用として金三八万八八七八円を支出した。

(3) 本件不慮の事故により突如として原告周子は夫、同ふさじは息子を、その他の原告五名は父を失い、原告らはそれぞれの亡久弥の惨死による衝撃、今後の経済的生活に対する不安と苦慮、学業継続断念の懊悩などからその精神的苦痛は甚大なものがある。これらに対する慰藉料として原告周子につき金一〇〇万円、同ふさじにつき金三〇万円、その他の原告五名につきそれぞれ各金五〇万円を相当とする。

3 充当分

(1) ところで原告らは昭和四一年五月二日自賠責任保険金として金一〇〇万四五〇〇円、被告鈴木から同年三月四日賠償金の一部として金一〇万円合計金一一〇万四五〇〇円を受取つた。

(2) そこで右金員を前記葬儀費用金三八万八八七八円に充当し、その残額を亡久弥の逸失利益に充当すると、その逸失利益(損害額)は金五三〇万五九七五円となる。

4 原告らの各損害額

(1) 右亡久弥の損害賠償額のうち原告周子は金一七六万八六五八円を、同恒徳は金三五三万七三一六円を相続した。

(2) 右2の(3)と4の(1)を合計すると、原告周子は金二七六万八六五八円、同恒徳は金四〇三万七三一七円、同ふさじは金三〇万円、その他の原告四名は各金五〇万円の損害を被つた。

(四)  よつて請求の趣旨記載の支払を求める(遅延損害金の利率は民法所定の年五分)。

三  被告鈴木をのぞくその他の被告らの主張ならびに抗弁に対する反駁

(一)  被告らの主張(一)の事実のうち、被告美文が被告鈴木の無免許を知つていたこと、運転を依頼する意思がなかつたこと、被告美文が泥酔のため心神喪失の状態にあつたこと、被告鈴木が被告美文からキイを取り上げて勝手に被告車を運転したことは否認、ボーリングをとりやめた事情は不知。

(二)  同(二)の事実のうち亡章史が窪田に貸与したことは否認する。その点は亡章史は父の訴外山本六之助および被告美文に貸与し、六之助が窪田に運転を依頼し、六之助が窪田にキイを渡したのである。亡章史が本件事故につき被告車の運行供用者にあたらないとの点は否認。

(三)  同(三)の事実は否認。

四  証拠〔略〕

第二被告ら

一  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする。

二  請求原因に対する答弁

(被告鈴木)

請求原因(一)、(二)の各事実を認め、同(三)の事実のうち原告らの損害額は否認し、その余の事実は認める。

(その他の被告四名)

(一) 請求原因(一)の1の事実のうち、被告美文が酒を飲んだこと、被告車の助手席に同乗していたこと、三沢久弥が死亡したことを認め、その余の事実は否認する。

同(一)の2の事実のうち、被告美文が昭和四〇年一二月四日夜、翌五日の日曜日を利用し早朝のボーリングに行くために、実兄の亡章史に断わらずに、同人の店舗のレジスターから被告車のキイを持出したこと、その後被告鈴木と酒を飲んだこと、助手席に同乗したことを認め、その余の事実を否認する。

(二) 同(二)の事実のうち、亡章史が糸雑貨商を営んでいたこと、被告車の実質上の所有者であること、被告美文において他出する際は、同被告に運転経験がないため運転のできる知人に依頼していたこと、被告美文が本件事故当夜店舗内のレジスターの抽出から被告車のキイを無断で持出したこと、および亡章史と被告久美子、同哲史、同英樹の身分関係ならびに相続分のことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 同(三)の1の事実のうち、就労可能年数は否認、その余の事実は不知。同(三)の2のうち、冒頭の事実および慰藉料の額は否認、その余の事実は不知。同(三)の3の事実のうち、その(1)の事実は認め、その余の事実は不知。

(四) 同(四)の事実は否認。

三  被告美文同久美子同哲史同英樹の主張ならびに抗弁

(一)  右四日午後九時前被告美文は、永楽こと訴外窪田恵吉に被告車の運転を依頼すべく同訴外人(永楽)方に行つたが、窪田が翌五日は仕事の都合でボーリングができないことを知り、被告美文はボーリングに行くことを断念した。そこで同夜午後九時ころから右永楽において被告鈴木と飲酒したが、被告美文は被告鈴木が自動車の運転免許を得ておらず運転のできないことを知つていたから、同被告に運転を依頼する意思は毛頭なかつた。ところが被告美文は被告鈴木と同夜午前〇時ころまで右永楽および「ブルーバード」で飲み歩き、多量の飲酒のため泥酔し、そのため心神喪失の状態に陥つた。被告鈴木はそのような状態にある被告美文から被告車のキイを取り上げ、勝手に被告車を原告主張のように運転して本件事故を惹起したものである。

被告美文は無意識で助手席に同乗していたにすぎず、しかも右のような精神状態にあつたのであるから、被告美文には責任はない。

(二)  亡章史は被告車を営業用として使用したことはなく、家族の慰安に使用していたものであつて、そのキイは常に妻である被告久美子の鏡台の抽出に入れて保管していた。亡章史は被告美文に運転させたことはなく、亡章史が所用で運転できないときは亡章史が事前に電話等で訴外窪田に依頼し、被告美文を使者としてキイを届けさせていた。被告美文は無断で勝手にキイを持出すことはできず、過去に一度もそのようなことをしたことはない。本件事故当夜たまたまレジスターの抽出にキイがあつたのは、事故の前日亡章史が訴外窪田に被告車を貸与し、同日窪田がキイを返しにきたので被告久美子においてこれを受取り、安全を考えてレジスターの抽出に保管していたにすぎない。また被告車は訴外石川晴信所有の有料駐車場に駐車していて、道端等に放置することはなかつた。要するに亡章史においてキイの保管、被告車の保管に過失はない。ところで自賠法第三条の運行供用者というには運行支配と運行利益の帰属が必要であるところ、被告鈴木の前記のような無断運転は、亡章史の全く予想しなかつたところであつて、亡章史の運行支配から完全に逸脱しており、かつ亡章史にはなんらの利益の帰属がない。したがつて被告鈴木同美文の本件行為は亡章史のための運行ということはできず、亡章史には損害賠償責任はない。それ故その相続人である被告久美子同哲史、同英樹には賠償責任はない。

(三)  かりに被告らに賠償責任があるとしても、亡久弥は事件当夜深い霧の中を交通頻繁な道路において、左右の安全を確認せず、酒に酔つて被告車の直前を横断した重大な過失がある。これは陪償額の算定上斟酌されるべきである。

四  証拠〔略〕

理由

第一  一 原告らと被告鈴木の間においては、請求原因(一)、(二)および損害額を除く同(三)の各事実は争いがない。したがつて被告鈴木は本件事故による原告らの損害を賠償する義務がある。

二 被告美文同久美子同哲史同英樹の賠償責任

(一)  〔証拠略〕によれば、請求原因(一)の1の事実が認められる。他に右認定に反する証拠はない。

(二)  〔証拠略〕によれば請求原因(一)の2の事実が認められる。これに対し被告らは、被告鈴木が無免許であることを被告美文は知つていたとか、被告美文が被告車に同乗した当時泥酔のため心神喪失の状態にあつたとか、被告鈴木が被告美文からキイを取り上げて勝手に被告車を運転したとかの事実を前提として被告美文の過失を否認するが、それらの各事実を認めるに足りる証拠はなんら存しないので右被告らの主張はその前提において理由がない。したがつて被告美文は本件事故による原告らの損害を賠償する義務がある。

(三)  〔証拠略〕を綜合すると、亡章史は被告車の実質上の所有者であつて、これを保有して主として父母妻子ならびに同居の被告美文を含む家族らのレジヤーや家庭的所用のために、従として営業用に使用していたこと。被告美文は本件事故の以前にも、数回亡章史から被告車を借りて、自ら他者に運転を依頼しレジヤーなどに使用していること。父六之助も身延に行くときは被告車を借りていること。かつ被告車はその主張のように常時駐車場に駐車されていたものではなく、被告ら宅の近隣の空地に駐車されていることもあつたこと。などが認められるところからするならば、実兄である亡章史とともに糸雑貨商の営業を営み、かつその家族として同居していた被告美文が、ドライブのため(その辺を乗り廻すという目的はレジヤーとしてのドライブであるといえる)に被告車の運転を被告鈴木に依頼し、自らも同乗して被告鈴木に運転させたことは、被告美文がキイを持出すさいに亡章史またはその妻である被告久美子の承諾を得なかつたにせよ、被告美文のレジヤー的目的に被告車が使用されたものというべきであるから、右被告車の運転につき亡章史は自賠法第三条の運行供用者にあたると解するのを相当とする。被告らはキイおよび被告車の保管を厳にして被告車の運行に関し注意を怠らなかつた旨主張するが、その事実を認めるに足りる証拠はないので、右主張は理由がない。したがつて亡章史は、本件事故による原告らの損害を賠償する義務がある。ところで右章史は昭和四四年四月一九日死亡し、被告久美子同哲史同英樹がその遺産を相続分に応じ相続したことは当事者間に争いないところであるから、右被告三名は前記亡章史の賠償義務をそれぞれ三分の一宛債務承継したというべきである。

(四)  なお以上の全被告らの賠償義務は、それぞれ債務額の限度において各自連帯債務の関係にあるものである。

三 原告らの損害

(一)  亡久弥の逸失利益

1  〔証拠略〕によれば、亡久弥は大正七年五月一八日生れであつて、本件事故により昭和四〇年一二月五日死亡したのであるから、死亡当時四七年六ケ月であること。亡久弥は当時、亡久弥の同族で設立している訴外株式会社山梨ヘルスセンターの代表取締役の地位にあつたほか、旅館業も営んでおり、健康な成年男子であつたことが認められる。右事実からその平均余命は少くとも二七・三六年であり(この点当事者間に争いがない)、将来その地位および職業の態様から六五年六月までは就労が可能であつたと推定することができる。すなわちその就労可能年数は一八年であると認めるのを相当とする。

2  〔証拠略〕によれば、本件事故当時亡久弥は前掲会社から給与として一ケ年金五五万円の収入を得ており、そのほか家賃として金一二〇万円(必要経費金一〇九万六九六〇円)の収入があつたことが認められる。右収入のうち家賃は亡久弥の役務提供によつて得られるものではなく、その死亡後も遺族である原告らにおいて、収益を得ていることが充分に窺われるところであるから、右家賃による収益を逸失利益算定の基礎に含むことはできないというべきである。しかしながら亡久弥の消費支出の算定については、全収入に対する関係であるから前掲の給与と家賃の全収入を基礎とすべきであるところ、右各収入の度合からするならば、右給与から控除すべき消費支出額は、給与所得控除額をもつて相当とすべく、その額は〔証拠略〕によれば金一二万八九三八円であることが認められる。したがつて亡久弥の得べかりし利益の算定の基礎とすべき一ケ年の純収益は、金五五万円から金一二万八九三八円を控除した金四二万一〇六二円であると認められる。

3  右一八年間の右純収益を現時点において一時に請求しているところから、年五分の中間利息を控除するホフマン式計算によるべく、政府の公刊物である「政府の自動車損害保障事業損害査定基準」(昭和四一年七月一日改正以前のもの)によれば就労可能年数一八年の係数は一二・六〇三であるから、これを前記金四二万一〇六二円に乗ずると、亡久弥の逸失利益は金五三〇万六六四四円であることが認められる。

4  ところで〔証拠略〕によれば亡久弥の右損害賠償請求権を原告周子が三分の一、原告恒徳が三分の二を相続したことが認められるので、原告周子の損害は金一七六万八八八一円、原告恒徳の損害は金三五三万七七六三円である。

(二)  葬儀費用

〔証拠略〕によれば、原告周子は亡久弥の葬儀費用として金二七万〇五二八円を支出したことが認められる(香典返しと認められる〔証拠略〕の分を除く)。

(三)  慰藉料

〔証拠略〕によれば、原告らは亡久弥の妻、子、母としてともどもに幸福な家庭生活を営んでおり、五名の子供はそれぞれ将来の生活および勉学の環境等につき全く不安がなかつたところ、被告鈴木同美文らの無暴極まる酩酊運転によつて、なんらの過失がないのに(この点後述)その夫であり父であり子である久弥を一瞬のうちに失つたことは、その悲歎の深さは多大なものがあると推察できるのみならず、一家の経済の中心であつた久弥を失つたため、一家の生計に大きな影響を受け、現在原告周子において久弥の地位を継いで経営にあたつているものの、営業成績必ずしも芳からず、さらに原告恒徳は大学を中途にて断念し、母周子をたすけて父の営業を継続するのやむなきに至つており、他の久弥の子である四名の原告もいずれもその影響を被らざるをえない実情にあつて、それらより受ける精神的苦痛もまた甚大なものがあると認められる。なお本件事故は昭和四〇年一二月四日であるところ、現在にいたるまですでに六年を経過しているのにかかわらず、被告らは一片の誠意さえみせていない。以上の点を彼此勘案し、右精神的苦痛に対する慰藉料として原告周子につき金一〇〇万円、原告恒徳につき金五〇万円、原告秀文同善行同満仁同美弥子につきそれぞれ各金三五万円、原告ふさじにつき金一〇万円(本件事故当時七五年の高齢であり、昭和四五年一二月八日すでに死亡している点を考慮した)と認定するのを相当とする。

(四)  以上認定した各事実から、その損害額は原告周子につき金一七六万八八八一円と金二七万〇五二八円と金一〇〇万円と合算した金三〇三万九四〇九円、原告恒徳につき金三五三万七七六三円と金五〇万円とを合算した金四〇三万七七六三円、原告ふさじにつき金一〇万円、その他の四名の原告につき各金三五万円であるというべきである。

四 被告らは本件事故につき亡久弥にも過失があつた旨主張するが、取調べた全証拠をもつてしても、右主張に沿う事実は認めることができないので、被告らの主張は理由がない。

五 充当分

ところで原告らが自賠責保険金として金一〇〇万四五〇〇円、被告鈴木から賠償金の一部として金一〇万円合計金一一〇万四五〇〇円を受取つていることは当事者間に争いがない。原告は右金員をまず葬儀費用に充当し、残金を亡久弥の逸失利益に充当することを主張するので、右方法により充当することにする。すると葬儀費用金二七万〇五二八円を控除した残金は金八三万三九七二円であるので、これを三分の一と三分の二に分けると、それぞれ金二七万七九九〇円と金五五万五九八二円となる。したがつて原告周子の損害から控除されるべき分は金五四万八五一八円、原告恒徳の損害から控除されるべき分は金五五万万五九八二円となる。そこで前記三の(四)の原告周子同恒徳の各損害から右各金員をそれぞれ控除すると、原告周子の損害は金二四九万〇八九一円、原告恒徳の損害は金三四八万一七八一円となることが認められる。

六 以上の各事実から、被告鈴木同美文は左記金額の全額につき、被告久美子同哲史同英樹は左記金額の各三分の一の金額につき各自連帯して、原告周子に対し金二四九万〇八九一円(三分の一は金八三万〇二九七円)、同恒徳に対し金三四八万一七八一円(同右金一一六万〇五九四円)、同秀文同善行同満仁同美弥子に対し各金三五万円(同右金一一万六六六六円)、同亡ふさじに対し金一〇万円(同右金三万三三三三円)、および右各金員に対し記録上訴状送達の翌日であることが明らかである昭和四一年一二月一〇日から民法所定の年五分の割合による金員を支払うべき義務があるというべきである。

七 右のように原告らの請求は、右六の限度において理由があるからその範囲において認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸俊彦)

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